分析研究系・助教授【民族植物学・有用植物分類学】
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食べる、癒す、飾る、染めるなど、いろいろな |
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![]() ↑ ミャンマー、シャン州のアワ(2001年) ← ミャンマー、マンダレー管区の市場で売られていた 有用植物。食用、薬用、髪飾り用など、用途は 多岐にわたっている(2001年) |
1) 東南アジアの雑穀をめぐる農耕文化、生活文化 |
東南アジアの国々、タイ、ラオス、ベトナム、ミャンマー(ビルマ)、インドネシアでフィールドワークをしてみると、アワ、モロコシ、ハトムギ、シコクビエ、アマランサスなどの雑穀が栽培されていることがわかりました。村の人たちは、ご飯やおこわ、餅や菓子にして食べたり、酒をつくったりしています。たしかに雑穀には、主食のイネや、村の経済を支える商品作物のような重要性はありませんが、それでも栽培が続けられ、人々の毎日の暮らしに活かされています。この雑穀に視点をおいて、東南アジアの農耕文化や生活文化を描き出したいと考えています。 |
2) ハトムギとジュズダマの民族植物学 夏の暑い日にはとむぎ茶にして飲んだり、漢方薬として処方され たりするハトムギと、日本でも河川敷や水路などに生えるジュズ ダマは、どちらもイネ科ジュズダマ属に属する有用植物です。 東南アジアでは、ハトムギは食用の穀類として、焼畑や庭畑で 栽培されています。農民は、粥や菓子類、酒などをつくったり、 ときには穂ごとゆでて、あるいは生で食べたりしています。 いっぽうのジュズダマのなかまは、薬用植物として利用されたり かたい殻の部分がものを作る素材として用いられたりしています。 ハトムギとジュズダマのなかまが、世界のどんなところで、 どうやって使われているのか、その植物としての多様性と人々との かかわりあいに関心を持っています。 タイ、チェンライ県で陸稲と混作されるハトムギ(1997年) → |
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経歴
1)学歴
北海道大学農学部農学科卒(1989)
京都大学大学院農学研究科修士課程修了(1993)
京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了(1997)
京都大学博士(農学)(1997)
2)職歴
京都大学生態学研究センターリサーチアソシエイト(1997-1998)
国立民族学博物館地域研究企画交流センター中核的研究機関研究員(1998-2001)
京都大学東南アジア研究センター非常勤研究員(2001-2002)
大阪工業大学非常勤講師(2000-2001)
龍谷大学非常勤講師(2001)
同志社女子大学嘱託講師(2001)
3)専門・専攻
民族植物学
4)所属学会
日本熱帯生態学会、日本熱帯農業学会、日本植物分類学会,Society for Economic
Botany、東南アジア史学会
5)業績
刊行物リスト(1993-2004)
1993年
落合雪野(1993) 「パキスタン北部カラコラム山村のアワの分布と変異」『雑穀研究』 No.4:6-7.
1994年
Yukino Ochiai, Makoto Kawase and Sadao Sakamoto (1994) Variation and distribution
of foxtail millet
(Setaria italica P. Beauv.) in the mountainous areas of northern Pakistan,
Breeding Science Vol.44, No.4:413-418.
1995年
ピーター・バーンハルト著、阪本寧男・落合雪野共訳(1995)『植物との共生』晶文社 202p.
落合雪野(1995)「北タイ山地民の雑穀」『雑穀研究』7号:1-2.
1996年
Yukino Ochiai (1996) Variation in tillering and geographical distribution
of foxtail millet (Setaria italica P. Beauv.),
Breeding Science Vol.46, No.2:143-148.
落合雪野(1996)「タイ北部のジュズダマ属植物とその利用」『遺伝』50巻9号:50-54.
落合雪野(1996)「韓国済州島の雑穀」『雑穀研究』8号:8-12.
1997年
Makoto Kawase, Yukino Ochiai and Kenji Fukunaga (1997) “Characterization
of foxtail millet, Setaria italica (L.)
P. Beauv., in Pakistan based on intraspecific hybrid pollensemi-sterility”,
Breeding Science Vol. 47, No.1:45-49.
Yukino OCHIAI (1997) “Variation and distribution of Setaria italica (L.)
P. Beauv. and associated Setaria weeds in northern Pakistan”
(学位論文)
1998年
阪本寧男、落合雪野共著(1998)『アオバナと青花紙−近江特産の植物をめぐって−』サンライズ出版 159p.
落合雪野(1998)「民族博物誌54、アワ」、月刊みんぱく10月号:20-21.
落合雪野・阪本寧男(1998)「アオバナと青花紙−染織文化にみる植物と人とのつながり−」『エコソフィア』1号:64-69.
1999年
大田正次・落合雪野・井上直人・朴阜ユ・阪本寧男(1999)「日本海をめぐる民族自然誌研究(U)」
『環境科学総合研究所年報』18巻:75-94.
落合雪野(1999)「遊びの風景 ジュズダマ」『エコソフィア』3号:80.
落合雪野(1999)「地域を読む アオバナの花咲く里から」朝日新聞大阪版7月1日
2000年
落合雪野(2000)「済州島をあるく」『民博通信』90号:119-125.
落合雪野(2000)「東南アジア大陸部における雑穀の栽培と利用−ベトナム北部、中国雲南省の現地調査から−」
『雑穀研究』13号:1-4.
Yoshihiko Furuta, Damdihin Badamochir, Shoji Ohta, Junzo Fujigaki, Tohru
Tomonaga, Hideho Miura, Kazuhiro Sato,
Katsumasa Niwa and Yukino Ochiai (2000) A Preliminary report of ‘the Gifu
University Scientific Exploration in the
eastern Eurasia in 1999 (GSEE99)’, Faculty of Agriculture, Gifu University
2001年
大田正次・落合雪野・朴阜ユ・阪本寧男(2001)「日本海をめぐる民族自然誌研究(U)」『環境科学総合研究所年報』20巻:29-41.
落合雪野(2001)「タイ北部のアカ人によるジュズダマ属植物(Coix)の栽培と利用」『熱帯農業』45巻別号2:41-42.
落合雪野(2001)「東南アジア大陸部における雑穀の栽培と利用−ラオス現地調査から−」『雑穀研究』15号:1-6.
2002年
Yukino Ochiai (2002) Domestication and cultivation of edible Job’s tears
(Coix lacryma-jobi subsp. ma-yuen) under the influence of
Vegeculture, JCAS Symposium Series 16, The Japan Center for Area Studies,
National Museum of Ethnology, 59-75.
落合雪野(2002)「東南アジア大陸部のカレン人によるジュズダマ属植物(Coix)の栽培と利用」『熱帯農業』46巻別号2:5-6.
Matthews, Peter J., MATSUDA Masahiko and Yukino OCHIAI (2002) Comments
on the classification and naming of root crops
and other crop categories, JCAS Symposium Series 16, The Japan Center for
Area Studies, National Museum of Ethnology, 331-335.
落合雪野(2002)「書評 増田昭子著『雑穀の社会史』」『学鐙』99巻5号:46-49.
2003年
落合雪野(2003)「朝鮮半島における雑穀の民族植物誌」朝倉敏夫編『「もの」から見た朝鮮民族文化』新幹社:184-198.
落合雪野(2003)「ハトムギ―焼畑と庭畑の穀類」吉田集而、堀田満、印東道子編『イモとヒト―人類の生存を支えた根栽農耕』
平凡社:247-265.
落合雪野(2003)「農業のグローバル化とマイナークロップ−ラオス、ルアンパバーン県周辺におけるハトムギ栽培の事例から−」
『アジア・アフリカ地域研究』2号:24-43.
落合雪野(2003)「アワ」『月間みんぱく』編集部編『世界民族博物誌』18-19.(落合雪野(1998)
「民族博物誌54、アワ」、月刊みんぱく10月号:20-21.の再録)
落合雪野(2003)「エゴマと餅―東南アジア大陸部山地における香辛料植物の利用をめぐって―」
『農耕の技術と文化』26号:1-24.
落合雪野(2003)「東南アジア大陸部におけるハトムギの栽培状況:地理的分布と在来品種の存在」『熱帯農業』47巻別号1:85-86.
落合雪野(2003)「雑穀をめぐる農業と生活のいとなみ―東南アジア大陸部山地のフィールドから」『東北学』9号:300-311.
落合雪野(2003)「民族博物誌108 モロコシ」、月刊みんぱく8月号:20-21.
落合雪野(2003)「書評 木村茂光編『雑穀―畑作農耕論の地平』」『農耕の技術と文化』26号:143-149.
落合雪野(2003)「植物と人便り1.東南アジア大陸部のエンセーテ」『日本植物分類学会ニュースレター』11号:22.
2004年
落合雪野(2004)「モチ性穀類を食べる」『ヴェスタ』54号:71.
口頭発表、一般向け講演など(1993-2004)
1993年
落合雪野 「パキスタン北部カラコラム山村のアワの分布と変異について」
1993年9月16日 第7回雑穀研究会シンポジウム (岩手県立農業試験場県北分場)
落合雪野・阪本寧男 「アワにおける分げつ性の変異と地理的分布」
1993年10月5日 第84回日本育種学会講演会 (北海道大学学術交流会館)
1995年
落合雪野 「北タイ山地民の雑穀」
1995年9月16日 第9回雑穀研究会シンポジウム (北海道沙流郡平取町二風谷アイヌ文化博物館)
落合雪野 「北タイのモチ性穀類とその利用」
1995年10月7日 第1回民族自然誌研究会シンポジウム (京都大学楽友会館)
1997年
阪本寧男・落合雪野 「滋賀県草津地方特産のアオバナと青花紙」
1997年1月25日 第6回民族自然誌研究会シンポジウム (京都大学京大会館)
1998年
落合雪野 「タイで利用されるジュズダマ属植物」
1998年2月27日 第82回東南アジアの自然と農業研究会(京都大学東南アジア研究センター)
1999年
落合雪野「韓国における雑穀の民族植物誌」
1999年1月30日 国立民族学博物館共同研究会「ものを通してみた朝鮮民族文化」(国立民族学博物館)
落合雪野「近江特産の染料作物アオバナ−その栽培・加工・利用をめぐって−」
1999年4月4日 日本育種学会 第28回生物進化・細胞遺伝懇話会(宇都宮大学国際学部棟、宇都宮市)
2001年
落合雪野「タイ北部のアカ人によるジュズダマ属植物(Coix)の栽培と利用」
2001年10月25日 日本熱帯農業学会 第90回講演会(ホテル日航八重山、石垣市)
2002年
落合雪野「東南アジア大陸部のカレン人によるジュズダマ属植物(Coix)の栽培と利用」
2002年9月28日 日本熱帯農業学会 第92回講演会(近畿大学農学部、)
落合雪野「アフリカの雑穀、アジアの雑穀」
2002年10月19日 西アフリカおはなし村雑穀ワークショップ(国立民族学博物館、吹田市)
2003年
落合雪野「東南アジア雑穀レポート」
2003年1月28日 アサヒビール食文化講座スローライフ・スローフードPart2 (アサヒスクエアA、墨田区)
落合雪野「東南アジア大陸部におけるハトムギ(Coix lacryma-jobi subsp. ma-yuen)の栽培状況:
地理的分布と在来品種の存在」
2003年3月28日 日本熱帯農業学会 第93回講演会(日本大学生物資源科学部)
落合雪野「カレン人によるジュズダマ属植物の利用―ミャンマー、バゴー管区SN村の事例から」
2003年6月14日 第13回日本熱帯生態学会年次大会(鹿児島大学、鹿児島市)
落合雪野・江口一久「雑穀がむすぶアフリカとアジア」
2003年10月18日 第306回みんぱくゼミナール(国立民族学博物館、吹田市)
2004年
落合雪野「雑穀とともに暮らす―東南アジア大陸部山地の事例から」
2004年1月24日 第34回 民族自然誌研究会(紫蘭会館、京都市)
Yukino OCHIAI “Plants as the basis for material culture: A note on Job’s tears and the Karen people in Bago Yoma”
2004年3月3日 Presentation of research findings on “Sustainable forest
management and indigenous uses of forest resources in Myanmar”
(ミャンマー林業省、ヤンゴン)
Yukino OCHIAI “Plants in everyday domestic life in the Wallacean World: A note on Coix species, Gramineae”
2004年3月23日 21st Century COE Program International Workshop in Jakarta
(インドネシア科学院、ジャカルタ)
落合雪野「薬用植物としてのジュズダマ属―人はどうやって使い分けてきたか」
2004年3月30日 日本薬学会第124年会 シンポジウム「天然薬物のフィールドワークを考える」
(ハイアットリージェンシーオオサカ、大阪市)
落合雪野「ミャンマー、シャン州におけるジュズダマ属植物の利用―食べる、治す、飾る―」
2004年6月12日第14回日本熱帯生態学会年次大会(愛媛大学農学部、松山市)
落合雪野「飾る植物―ジュズダマ属利用の広がりと変容をめぐって」
2004年7月10日三学会例会(鹿児島大学理学部、鹿児島市)
落合雪野「ヤシはいろいろなものにすがたをかえる」
2004年7月24日自然体験ツアー(鹿児島大学農学部指宿植物試験場、指宿市)
6)おもな研究・調査歴
“Basic studies on the diversity of traditional plants: their usages and sustainability” (タイ:19944-1997)
「日本海をめぐる民族自然誌研究」(韓国:1998-2000)
「ユーラシア大陸東部におけるムギ類の遺伝資源とそれらの栽培と利用に関する研究」(モンゴル:1998,インド:2001)
「異生態系接触に関わる人口移動と資源利用システムの変貌」(ベトナム:1998、中国雲南省:1998、ラオス:1999、インドネシア:2000)
「JICAミャンマーシードバンク計画における遺伝資源の探索収集に係る技術指導」(ミャンマー:2001)
「ウォーラセア海域における生活世界と境界管理の動態的研究」(インドネシア:2001-2003)
「ミャンマー北・東部跨境地域における生物資源利用とその変容」(ミャンマー:2001-2003)
「有用植物の利用からみた東シナ海東部島嶼域の地域特性」(鹿児島県:2003-)
「アジア・熱帯モンスーン地域における地域生態史モデルの構築」(ラオス:2003-)
「ミャンマー少数民族地域における生態資源利用と世帯戦略」(ミャンマー:2004-)
7)社会活動など
京都大学東南アジア研究所学外研究協力者
総合地球環境学研究所共同研究員
雑穀研究会編集幹事
国立民族学博物館共同研究員
鹿児島県文化財保護審議会委員
京都大学大学院農学研究科非常勤講師
有用植物あれこれ
1)植物のビーズ
ジュズダマのなかま
世界各地で人々はジュズダマの殻を素材にものをつくってきました。
数珠、ネックレス、腕輪、髪飾り、かばん、仮面、彫刻、カーテン、楽器など、
ジュズダマを使ったいろいろなものがあります。
ジュズダマの形や色、大きさもさまざま、その使い方もさまざまです。
タイ北部に暮らすアカ人が作った腕輪とネックレス(1996年)
ジュズダマのビーズを飾った衣装が流行しています。ミャンマー、ヤンゴン市内の市場(2004年)
2)アオバナ
日本の伝統文化をささえる染料植物
アオバナ(オオボウシバナ)はツユクサの栽培型で、その大きな花弁からとれる青色色素が、
友禅染や絞染の下絵用絵の具として使われます。滋賀県草津市の農家のみなさんは、
いまでもこのアオバナを栽培し、青花紙に加工して出荷しています。アオバナの色素で描いた
下絵は、かんたんに、しかも跡を残さずきれいに消えるという特徴があります。
この特徴が、京友禅、加賀友禅、名古屋友禅、京鹿の子絞り、有松鳴海絞りなど、
日本の伝統的な染織技術に活用されてきたのです。
開花したアオバナ(1995年)